マラソンのトレーニングはジョギングだけではありません。
目標がフルマラソン完走であったり、サブ4やサブ3を狙うのであれば戦略的にトレーニングを実施することは必要不可欠。
30㎞以降に急激な失速する「30㎞の壁」を越えるにはスピード練習や坂道トレーニングといったバリエーションに富んだ練習を行い、総合的に身体を鍛える必要があります。
この記事ではマラソントレーニングのメニュー13種類の方法や効果まとめています。
ジョギング・ランニング
トレーニングの基本中の基本です。「ジョグ」ともいいますね。
『何をするのか迷ったら、とりあえずジョギングする』というぐらい、ジョギングをして失敗することはありません。
サブ3.5やサブ3以上を狙うのであればジョギングだけで目標を達成することは難しいのですが、完走が目標であればジョギングだけでも継続さえできれば目標を達成できるでしょう。
ジョギングには能力を維持するという目的と疲労をアクティブに回復させるという2つの目的もあります。
走力を上げるにはインターバルやビルドアップ走といった負荷の高いポイント練習とジョギングを組み合わせてメニューを消化していく必要があります。
ジョギングの目安は30分から90分といったところ。
距離では3kmから15kmくらいになります。それ以上の時間・距離では「距離走」というメニューになり、負荷をかけるトレーニング(ポイント練習)という位置づけになります。
もちろん、は20km走っても翌日に疲れが残らないという上級者は40km〜50kmほどの距離が「距離走」に該当します。能力を維持するためのジョギングなのか、それともポイント練習として距離走をするのか目的をもってトレーニングを行うとより効果的ですね!
初心者ランナーは20分以下、または1〜3kmでも立派なジョギングです。まずは30分間、楽に走れることを目標にして「走れるための脚」を作っていきましょう。
トレーニングの負荷設定は距離または時間で設定します。
- 距離で設定…例:30分ジョグ、60分ジョグ、90分ジョグなど
- 時間で設定…例::5kmジョグ、8kmジョグ、20kmジョグなど
トレーニングを始めたばかりのランナーは時間で設定がおすすめ。
ペースが遅くても設定した時間がくれば終わるので、身体に負荷がかかり過ぎることはありません。
「自分で設定したメニューができずに、途中でやめてしまう…」という方は距離で目標設定して、折り返し(往復)コースを走ってみるとよいでしょう。半分走ってしまえばもう半分の距離は強制的に戻らないといけないため、自分で『走らざるを得ない状況』をつくることができます。
さて、ジョギングのペースはどれくらいが適正なのでしょうか?ペースについてはそんなに考える必要はなく、自分が気持ちよく走れるペースでかまいません。
また、ポイント練習を行った翌日にリカバリー目的であればさらにゆっくりジョギングしてもOK。
身体が軽く感じる日は少しペースを上げていいですね。注意点としてフォームが崩れるほどペースを落とさないようにしましょう!
ちなみに、ペースや距離を一定に設定して走るトレーニングはペース走やビルドアップ走になります。こちらは負荷が大きいのでポイント練習として実施します。
ウインドスプリント(流し)で手軽にスピード練習
ウインドスプリントは7〜8割の強度で50~100mほどの距離をダッシュするトレーニングです。スピードに対応できる脚づくり、フォームの矯正を目的に行います。力いっぱいダッシュするのではなく、リラックスして大きなフォームで走ることがポイントになります。
慣れていないと7〜8割という強度がよくわからないかもしれませんね。その場合は全力疾走でもかまいません。徐々に慣れてくれば「力を抜く感覚」がわかってきますよ!ウインドスプリントの本数は3〜5本が目安。電柱や木などを目印にしてみましょう。片道はウインドスプリントを入れて歩いて戻ります。ゆっくりジョギングで戻ってもOKです。
ウインドスプリントは本練習(ジョギングや距離走など)が終わったあとに入れるランナーが多いです。ただし、インターバルやレペティションといったスピード練習を行う前、身体が暖まりにくい冬場にはウォーミングアップとしてウインドスプリントを入れることもあります。
フルマラソンのレース前では、サブ3以上を狙う上級者ではレース前にウインドスプリントを入れています。また、5km・10kmほどのロードレース、駅伝、トラック競技といった距離の短いレースではではスタート前にウインドスプリントは数本入れておくと、スタート直後でもスピード上げて走ることができます。
ウインドスプリントはレース前のウォーミングアップでも有効なんですね!
距離走・ロングジョギング・ロングランニング
自分が気持ちよいペースで走るという点ではジョギングと同じですが、距離走は距離・時間を長めに設定してマラソンを走りきれるスタミナを強化するためのジョギングになります。
距離走は負荷が大きいトレーニングになるため週1~2回が上限。トレーニングの負荷設定は距離で設定または時間で設定します。距離では10~30km、時間では1時間~3時間が目安になります。
距離走はフルマラソン完走に向けて必須のトレーニングメニュー。初めてフルマラソンに挑戦するランナーでも本番前に20km以上は走っておくべきでしょう。
しかし、始めは距離走のすべてを走り切る必要はありませんのでご安心を。補食を携帯しておいて歩きながら食べてもいいですし、コンビニに寄って水分補給してもぜんぜんOKです。初心者でフルマラソンをすべて走り切るランナーはほとんどいません。休憩を入れてでも設定したメニューを消化することを心がけましょう!
ペース走でペース感覚を強化しよう!
ペース走とは、あらかじめ設定したペースで、設定した距離を走るトレーニングです。あらかじめ設定ペース配分で走ることができるスキルを身につけることで、本番でのペーシング感覚を維持できたり、ペースの無駄な上げ下げによる体力消費を避けることができます。
強度を高めで設定しないとトレーニングの効果が得られないため、週に1~2回が上限。ポイント練習として行います。距離は6km~30kmが目安です。
ペース設定はフルマラソンのペースが基準になりますが、10~20km以下のペース走であればフルマラソンのペースよりも1kmあたり10〜20秒は速く設定することが一般的です。
ペース走はスタートと同時にある程度のスピードまでペースを上げるので、本番を想定してトレーニングをできることがメリットでしょう。また、ペース走は走っているときの走行距離とペースがわかることが前提のトレーニングです。GPSウォッチまたはスマホは必須。陸上競技場のような距離表示のある環境でもOKです。
ビルドアップ走で持久力を高める
ビルドアップ走とは少し遅めのペース設定でスタートして一定の距離ごとにペースを上げながら走るトレーニングです。
例えば、6kmのビルドアップ走であれば…
- 1km〜2kmまで…キロ6分ペース
- 3km~4km…キロ5分30ペース
- 5km~6km…キロ5分ペース
といった具合になります。
ビルドアップ走のメリットはスタート時のペースが遅いので、ウォーミングアップを入念にしなくいいということ。身体があまり活動していない朝にランニングをしているランナーには特におすすめです。
ビルドアップ走の終盤はしっかりとペースを上げ切ることで、質の高いトレーニング効果を得ることもできます。ペース設定と距離の設定強度を上げればポイント練習としてもOK。実施頻度の上限は週に1~2回ほどになります。
LSD(ロングスローディスタンス)
LSDとは、「Long Slow Distance」の略で「長い距離をゆったりとしたペースで走る」というトレーニング法です。
LSDは長い距離を走りきることができる持久力をつけることに特化したトレーニング方法。息が上がるようなハードなトレーニングではないため、心肺機能にはそれほど負荷をかけることはできませんが、筋肉に血液を送り込むための毛細血管を発達させることで「疲れにくい筋肉」を鍛えていくことが可能です。
距離では20~30km、時間では2時間~3時間が目安。ペース配分は「自分が気持ちよく走れるペース」よりも1kmあたり20~30秒遅いペースが一般的。「かなり遅いかな」と感じるくらいでOKです。
アテネオリンピックで金メダルに輝いた野口みずきさんの名言「走った距離は裏切らない」の効果もあり、LSDが流行した時期がありました。現在では心肺機能に負荷をかけるような短期集中で質の高いトレーニング方法が主流となっており、低負荷で時間のかかるLSDは好き嫌いがはっきりと分かれているようです。
もちろん、LSDでは効果が得られないわけではないので、長い距離に自信がないランナーは一度実践してみてはいかがでしょうか。
スピード練習の王道!インターバルトレーニング
ポイント練習の定番ともいえるのがインターバルトレーニングです。
その中でも『1000m×5本』というメニューは毎日全国のどこかで行われていると言われているほどメジャーなインターバルトレーニングです。
インターバルの主なメニューは以下の通り。
- 100m×20本
- 200m×10~20本
- 400m×5~10本
- 1000m×3~5本
- 2000m×3本
距離や本数はカスタマイズできるので、メニューによって目的は変わってきます。
- 100m~400m…スピードを強化
- 1000m~2000m…スピード持久力を強化
負担の大きいトレーニングであることから、初心者は400m×3〜5本程度の短い距離・本数を少なくしてから慣れていきましょう。
インターバルで重要なことは、セット間のレスト(休憩時間)に回復させ過ぎないこと。基本的には走った距離の半分程度を歩くか、ゆっくりとジョギングで次のセットへつなぎます。完全に回復していない状態で次のセットを入れることで心肺機能に刺激が入り、スピード持久力の向上になります。
レペティションで最高スピードを底上げ!
レペティションとは全力疾走に近い状態で設定した距離を走る、スピードの強化に特化したトレーニングです。もちろん全力で長い距離を走ることはできないので、上限は1000mまで。本数は1~5本が目安になります。
具体化としては
- 100m×5本
- 200m×5本
- 400m×3~5本
- 1000m×1~3本
インターバルとは異なり、セット間は完全休憩します。
歩いたり、立ち止まっても構いません。ただし、身体が冷えてしまうまではNG。座り込むのもダメです。レペティションも基本的にはポイント練習として行います。強度が高いので頻度は1ヵ月に1回程度にしておきましょう。
フルマラソンの完走が目標でもスピード練習をしておくと走りに余裕が生まれます。フルマラソンで5時間を切るにはキロ7分ペースで走る必要がありますが、例えばキロ6分で走れる必要はないのでしょうか?
キロ6分で20kmを走れるスピードの余裕があるから、フルマラソンをキロ7分で走ることができるという考え方がしっくりきますね。
走りに余裕をつくるためにはレースペースよりも速いスピードでのトレーニングが必要です。よって目標がフルマラソン完走であってもレペティションはやった方が走力の底上げにつながります。
レペティションは身体への負担が高いだけ故障のリスクは高くなります。数カ月はジョギングが継続できていること、ウォーミングアップを十分に行うことに注意してレペティションに挑戦してみましょう!
坂道トレーニング(ファルトレク)
坂道を走るトレーニングはマラソンやウルトラマラソンを走るのであれば必須のトレーニングと言っても過言ではありません。
意図的に起伏があるコースを選択して走ることで心肺機能の強化と、坂道に対応できる脚づくりを目的とします。
登り坂と下り坂で負担のかかりやすい筋肉は違います。登り坂ではふとももの前側にある筋肉、下り坂ではお尻やふとももの後ろ側にある筋肉が主に活動します。すべての地形が平坦というフルマラソンはほとんどありません。(東京マラソンくらいでしょうか…)
トレーニングでやっていないことはレース本番で対応することは難しいので、しっかりと坂道に慣れておくことかがフルマラソン完走のカギとなります。登り坂のトレーニングでは、ペースを落としても登り坂では心肺機能に負荷をかけることができます。まだ走ることに慣れていないランナーのポイント練習としても有効です。
また、登り坂を利用してダッシュを入れるトレーニングも非常に効果が高いといわれています。レペティションと同じ効果を得ることができますが、レペティションに比べて故障のリスクが低いことが魅力的です。
クロスカントリー(芝生と坂道)
クロスカントリーは起伏のある芝生コースで走るトレーニングです。芝生は足が地面に着いたときの衝撃が吸収されるため、後ろ脚で蹴っても推進力を得られづらいことが特徴です。
足首の返し、つまりふくらはぎの筋肉に頼っているランニングフォームのランナーはスピードが出しにくく、ふくらはぎに負荷がかかり過ぎるため疲れやすくなります。つまり、クロスカントリーは、ふともも・お尻といった大きな筋肉を使えることができるフォームへ改善できることが大きなメリットといえます。
また、芝生は着地時の足への負荷が低いことから故障明けやリカバリージョグに適したトレーニング環境といえるでしょう。自宅から通える範囲でクロスカントリーのコースや芝生の公園があれば積極的に利用していきたいですね。
ガチユル走・タバタ式トレーニング(タバタプロトコル)
ガチユル走はBS(NHK)で放送されている「ランスマ」で紹介された方法です。その名の通り、ゆっくりジョグ(ユル走)とスピードを高めたランニング(ガチ走)を組み合わせて行うトレーニング方法です。
ガチユル走はタバタ式トレーニングに近いコンセプトになります。エネルギー源である脂肪を優先的に使用できるようにトレーニングすることで糖を温存し、30km以降でもスタミナ切れを起こさずにマラソンを走り切れるという理屈です。
もちろん、「脂肪を使い切ったら次は糖が使われるようになる」という現象が体内で起きるはずがなく、脂肪がエネルギーとして使われると同時に糖も使われます。番組で紹介されている理屈が正解かどうかは不明ですが、番組内で実践されたランナーは大幅に記録を更新されたようなのでトレーニングに取り入れてみる価値はありそうですね。
ガチユル走のやり方は以下の通りです。
①1kmユル走orウォーキング
②1kmガチ走(全力疾走)
③3分間その場で休憩
④1kmガチ走(全力疾走)
⑤休憩を入れずに7kmユル走
【合計10km】
これを週に2回行います。もちろんポイント練習として行うので、ガチユル走を入れた週はインターバルやレペティションを避けた方がよいでしょう。
山道を満喫!トレイルランニング
トレイルランニング、略してトレランは起伏のある山道を走るトレーニングです。トレイルランはトレーニング方法というよりも、ランニングのジャンルとして確立しているひとつの競技であるともいえます。最近ではトレランの大会もかなり増えてきました。
ファルトレクよりも高低差が大きい不整地を走るため、ジョギングでは鍛えることのできない筋肉を使うことができたり、バランス能力を大きく高める効果が期待できます。
トレーニング効果が高い反面、デメリットも多いのがトレランの特徴。まず、慣れていないとケガや故障のリスクは高いです。転倒によるケガはもちろん、捻挫など足首のトラブルは非常に多いです。
そしてコースを熟知していること、または熟知しているランナーと一緒に走ることは重要です。遭難や高所から転落の危険もあるため、きちんと下調べをして知識を得てからトレイルランを楽しみましょう。
トレッドミル(ランニングマシン)
ジムでのマラソントレーニングといえばトレッドミル(ランニングマシン)です。トレッドミルはペース・時間・距離・傾斜を思い通りに設定することができるので、さまざまなトレーニング方法に応用することができます。
地面でのランニングに比べて楽に感じるかもしれませんが、これはベルトが自動で回転するため蹴らなくても推進力を得られるためです。自分の走力が高くなったワケではありませんので、5%の傾斜を設定すると通常の地面と同じくらいの負荷になるので試してみて下さい。
家庭用のトレッドミルは傾斜設定ができなかったり、ウォーキング程度のスピード設定しかできない場合もあります。家庭用のトレッドミルを購入される方はせめて時速15km/h(キロ4分ペース)は出せる機種を選びましょう。
マラソンメニューまとめ
ジョギングといった基本のトレーニングからガチユル走といった変わり種のトレーニングまでマラソンのトレーニングを紹介しました。すべてのメニューをトレーニングに組み込む必要はありません。まずは今の自分には足りない要素を分析して、どんなトレーニングが必要なのか考えてみましょう。
- スタミナや長い距離に対して不安があれば距離走やLSDを週に1~2回入れる。
- 少しペースを上げると息があがってしまう状態であったり、駅伝やロードレースを目標にしているならインターバルやレペティションを週に1~2回入れる。
- 起伏のあるコースに対応するためにファルトレクやクロスカントリーを入れて坂道に対する不安を解消しておく。
もちろん「自分はどのトレーニングをしていいのか分からない!」というランナーもおられると思います。そんなときはジョギングを選択すれば間違いありません。メニューの選択もとても重要ですが、初心者はまずランニングを継続することがもっとも大切になります。
ランニングに慣れてきて、ジョギングだけでは目標達成が難しくなってきたらトレーニングのバリエーションを増やしていきましょう。